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OPINION

中国へ水産物輸出再開、信頼関係の醸成を

東京電力福島原発第2発電所におけるALPS処理水の排水を理由に、中国が2023年8月に日本産水産物を禁輸していた措置はようやく解除され、輸出が再開されることとなった。日中両国政府が今年5月に北京で開催した、輸出再開に関する4回目の技術協議において、必要な技術的要件について合意したことによる。
 もともとALPS処理水は、処理ができないトリチウムの濃度を国の安全基準とWHOの飲料水質ガイドラインを十分に下回るまで海水で薄めて海洋へ放出し、安全性が確保されていた。中国もIAEA(国際原子力機関)のモニタリングに参加してからは、「科学的証拠に基づき日本産水産物の輸入を着実に回復させる」と表明していた。それにもかかわらず、今日まで日本産水産物禁輸の解除が実現しなかったことは、あまりにも時間がかかり過ぎたと言える。
 しかも、今回の禁輸の解除には、2011年の東日本大震災による原発事故を理由にした10都県からの食品輸入規制は含まれておらず、これも早期に撤廃すべきだろう。
 ともあれ、中国向け水産物輸出再開の手続きは進んでいる。禁輸以前に、中国向け輸出水産食品取扱施設または活水産物施設として登録されていた施設を対象に、再登録を受け付けている。水産庁と厚生労働省が受け付け、これを中国側に送付する。再登録が認められれば、施設ごとに輸出する水産物に関し、新たに放射性ストロンチウムおよびトリチウムについて、初回輸出までに1回検査を受ける必要がある。禁輸前には全国で約1170施設が登録されていたが、再登録を希望する施設は多く、ストロンチウム等の検査は時間を要するため、最短でも輸出再開が実現するのは9月上旬となる。
 中国向け水産物の輸出再開で注目されるのはホタテ貝であろう。代表的な水産物輸出品目であるであるホタテ貝は、禁輸前の22年には冷凍両貝として中国へ、数量で約9万6000t、金額で375億円の輸出があった。北海道などのホタテ養殖業者、加工業者は輸出先が途絶えたことで、政府、東京電力や米国の支援などにより、第3国への輸出を模索。その結果、24年の冷凍両貝の輸出は、中国向けはゼロだったものの、その他の国・地域向けに数量で4万1000t、金額で121億円となった。国別では、ベトナム2万8000t、タイ7800t、インドネシア2500tなどの実績を築いた。22年当時に、これらの国への輸出はゼロに近かったことを思えば隔世の感がある。
 ホタテ業界にとっては、未開拓の国・地域についてもマーケティング等を戦略的に実施すれば、輸出ルートを作ることができるとの自信につながったことも大きい。これに中国市場が回復するのだから、ホタテの輸出先はより多角化することになる。

ホタテ輸出は中国依存から脱却も

北海道の中国向け水産物輸出の既存登録施設は360ヵ所あり、やはり再登録を希望する業者は多い。しかし、すでに第3国への輸出ルートを確立し、中国市場への魅力を感じなくなった業者もいる。今後も何らかの理由で、中国への輸出が難しくなるのではと懸念する業者もいる。この2年間の苦労を思えば無理もなく、中国との間で早期に信頼関係を構築することが必要となる。

(古藤)