OPINION
注目される極洋の魚食量増加運動
大手水産会社の極洋が3月から「社員向け魚食量増加運動」を始めた。その第1弾として、魚をおかずにした弁当を本社社員などに無料配布した。社員への福利厚生として実施しているものではない。
消費者の間で魚食の低迷が長期に及び、危機感を覚えた同社が、社員とともに魚食量増加に取り組むことに迫られたものだ。運動の標語として「水産会社なら魚を食え!」と単刀直入な表現を使い、魚食普及活動に初歩から取り組もうとする強い意志がうかがわれる。
農林水産省の食料需給表によると、日本人の1人当たりの年間魚介類消費量は、2001年の40.2kgをピークに減少傾向になり、22年にはピーク時の半分に近い22kgとなった。水産庁、民間企業・団体などが様々な魚食普及活動に取り組んでいるものの、水産物消費は低迷したままだ。これまでの魚食普及活動は大がかりだが、抽象的で焦点が絞り切れないところがあった。もっと具体的で分かりやすい方法がないものだろうか。
最近、水産物の消費拡大にとって参考となる事例がある。ALPS処理水の海洋放出に反対した中国が日本産水産物の禁輸措置をとったが、官民の支援により、ホタテ貝の米国、台湾、ベトナムなど第三国への輸出拡大に成功したことだ。24年の輸出金額は前年を0.9%上回り694億円(調整品を除く)に達した。
ホタテ貝が第三国への販路開拓に成功したのは、これまで日本産ホタテ貝を加工して米国等へ輸出していた中国からのルートが途絶え、米国におけるホタテ市場に空白が生じたからである。中国に代わって東南アジアあるいは日本でホタテを製品化し、それを対米等へ輸出することに成功したもので、当然の結果と言える。
全国魚食マップの作成を
国内でも魚食普及が遅れている地域は多い。家計調査によると魚介類の世帯当たり(都道府県庁所在地および政令指定都市、2人世帯)年間支出金額(22~24年平均)のベスト3は、①富山市(8万9435円)②青森市(8万6996円)③秋田市(8万1523円)で、いずれも漁業が盛んで魚食が普及しやすい環境にある。
しかし、水揚げ金額で全国トップクラスの漁港を抱える福岡市は、全国44位(6万5888円)にとどまる。関サバ・関アジの水揚げ漁港に近い大分市は45位(6万5636円)。ブリ・カンパチ・ウナギの養殖場が近い鹿児島市は48位(6万1962円)と順位は低い。
一方で、海に面しない内陸部にある奈良市の支出金額は全国8位の7万8599円だ。古くから伝わる「さんま寿司」が魚食を後押ししており、サンマだけの年間支出金額では6位(590円)となる。甲府市はマグロに絞ると2位(2650円)。江戸時代に駿河湾で獲れていたマグロを、広域に流通させる努力が効果をもたらした。「鯖街道」で知られる京都市は、サバに限定すれば6位(1113円)となる。
魚食普及が難しい環境であっても、工夫してマーケティングを展開すれば魚食量が増えることを示している。都道府県別あるいは地域別に魚食の程度を示したマップを作成し、マーケティングを展開すればより効果的だろう。遠大な取り組みとなるが、極洋のように基本に立ち戻り、魚食普及活動が展開されることに期待したい。
(古藤)