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OPINION

「海業」の多様な展開に期待する

農林水産省が漁港を中心として、水産業の活性化に向け取り組んでいる「海業」プロジェクトが注目されている。「海業」は「うみぎょう」と読み、一般には耳新しい言葉だが、マグロの水揚げで知られる三崎漁港を抱える、神奈川県三浦市で使われ始めた造語である。1985年に当時の三浦市長が、同漁港におけるマグロ等の取り扱い金額が年々減少していることを懸念し、水産資源を活用して地域を発展させるよう「海業」を提唱したことにさかのぼる。
 日本の漁業・養殖業生産量は、2023年に前年比5%減372万tと落ち込み、最低水準を記録するなど低迷が続いている。魚介類の1人当たり年間消費量は01年の40.2kgをピークに下がり続け、21年には23.2kgまで低下した。漁業を取り巻く厳しい環境を考えるとき、漁港における構造的な改革に取り組むのは当然のことだろう。
 海業の取り組みは「モノ消費」だけでなく、近年の消費者が求める「コト消費」に重点を置いている。人々を漁港へ導き、様々な体験を通じて水産業への理解を深め、これを水産物の消費拡大へつなげる。具体的には①渚泊(なぎさはく)・漁業体験・観光②釣り、マリンレジャー③飲食、販売④漁港活用の増養殖⑤市場・加工場の見学——を推進することで交流人口の拡大を図る。
 水産庁は22〜26年の5年間で、全国約500漁港において海業の取り組みを行う。今年3月には取り組みを積極的に支援する「海業の推進に取り組む地区」54件を決定した。いずれの取り組みも意欲的であるが、内容そのものはこれまでの漁業体験や観光漁業などと大きく異なるようには見えない。
 海業の推進は、その漁港において豊富な魚の水揚げがあることが前提となるべきだろう。渚泊や魚料理の飲食、水産物購買に訪れ、他産地の魚や輸入水産物が提供されるのでは、来訪者の興味は薄れる。「漁港活用の増養殖」が挙げられているが、漁港内の養殖では規模が限定的になる。海業をより魅力的にするには、結局のところ衰退した生産能力を復活・拡大することが重要となる。急がば回れで、漁業生産の増大に直結する「海業」を追求してほしい。

海洋研究の拠点構想も

従来の漁港の活用の範疇を超え、新たな視点から漁村の振興を図ることも考えるべきで、沿岸域を海洋研究の拠点にする構想があっても良い。日本の沿岸域には漁港の近辺に水産研究所、水産試験場などが多くあり、それらが蓄積しているデータは膨大である。現在、日本の近海は海洋熱波や黒潮大蛇行などにより漁模様が左右され、漁業が困難に直面することが多く、これらへの対応が急務となっている。AIやITなどの先端的な技術を駆使し、海洋異変の分析や解明を迅速に行えば、沿岸や近海漁業の振興に貢献できる。
 半導体の生産拡大に向け、熊本と北海道に半導体工場が建設されており、地域経済の発展にも寄与すると期待されている。いずれの工場建設地も、半導体生産に必要な水資源が豊富であることが背景にある。海業においても、沿岸の研究施設が持つ豊富なデータを武器に、先進的企業を誘致することなどで海洋の研究拠点を形成してほしい。プロジェクトの成功を期待したい。

(古藤)